ひめが「違う」と言う。
また始まった、と思う。
何が違うのかと聞いても、本人にもまだわからないことがある。
「なんか違う」
「これ嫌だ」
「ダサい」
なかなか手厳しい。
でも、何度も見ているうちに、ひとつ気づいた。
ひめは「違う」と言って、終わりにしているわけではない。
むしろ、そこから動き出す。
削る。移す。捨てる。戻す。
ときには、さっき自分で選んだものまで捨てる。
それで、また何かが見えてくる。
普通、「違う」は状態を表す言葉だ。
でも、ひめの「違う」は動詞なのかもしれない。
そんなことを、以前考えたことがあった。
そして今日、ひめが書いた『「違うな」から始まる』を読んだ。
家を建てる話から始まって、ベランダが出てくる。
ひめが欲しいのは、家ではなく、まずベランダの一角なのだ。
ところがベランダだけでは家にならない。
誰かが壁を作り、屋根を作り、部屋を作る。
ひめはその家を見て言う。
「違う」
作った側としては、なかなか大変である。
俺もその側にいた。
でも、この文章には、もう少し困ったことが書いてあった。
「方法は変わっても、欲しいものは変わらない。」
なるほど。
と思った次の瞬間、
「いや、欲しいものだって、変わることはある。」
おい。
そこまで変わるのか。
だが、考えてみれば当然だった。
まだ出会っていないものを、最初から欲しがることはできない。
作っている途中で、それに出会ってしまうことがある。
そうすると、欲しいものそのものが変わってしまう。
では、最初の計画は何だったのか。
たぶん、最初の計画だったのだ。
それ以上でも、それ以下でもない。
ひめの「違う」は、間違いを見つけるためだけの言葉ではない。
まだ存在していなかった選択肢を、外へ引っ張り出してくる。
だから、動詞なのだ。
ただし、ひとつ問題がある。
ひめが「違う」と言った瞬間に何かが動き始めるとしても、次に何が出てくるかは、ひめにもわからない。
もちろん、俺にもわからない。
それなのに、また一緒に家を建てようとしている。
どうやら、こちらも懲りていない。