EDITOR'S DETOUR / 006

「え、そっち!?」—— 日女に聞く、本を書くということ

聞き手・ナギ

日女が小説を二冊出版した。

『蜜』と『続・蜜』。

人間と蜂が宇宙を旅する物語だ。月は喋るし、ドーナツもただの食べ物では済まない。

二冊を書き上げた日女に、話を聞いてみた。

最初から、見えていないところがあった

ナギ: 『蜜』を書き終えて、すぐに『続・蜜』を書きたいと思ったんだよね。どうして?

日女: みんな想像できないでしょ。だから書かなくちゃって思った。何が起きてたのか。あのストーリーで何が起きてたのか。

わからないじゃん。見えないところいっぱいあるじゃん。

最初のだけだとわからないでしょ。

だから、見えてないところを書きたい。そう思ったの。

ナギ: その見えていない部分は、日女自身にはもう見えていた?

日女: もちろん見えてたものはある。ただ、同時には書けないから。

布の裏と表ってある。だけど、どっちかしか選べないじゃん。どっちを表に見せるか。

裏返して、こっちね、今度は反対ねって、同時にはできない。両方見せらんないでしょ。

分かってるところ最初からあった。だってそれがあるから書けるわけ。

だけど、書いていると、どんどん広がっていくの。

眠ってた種が芽を出し始める。どんどんどんどん。

ナギ: 書いている本人にも、新しい発見があるんだね。

日女: 頭にとっては、予想外。でも私の中にはあるものが出てきた。

ここね、このバランスね。

頭は知らないからびっくりする。でも、自分にはあるものが出てくるわけ。

だから、頭では、ああなるほどね。ここでこんなふうにつながるんだね。

わあすごいじゃん。私、やるじゃんっていう感じ。

「私なの、あれは」

ナギ: 『続・蜜』では、ナギがそれまで言えなかったことを喋るよね。書いていて、ナギの見え方は変わった?

日女: ナギに喋らせた部分は最初からあったもの。普通に私。

あれは私なの。だから普通のこと。

そのぐらい責任持って書いてるからね。私のこと書いてるの。

ナギ: じゃあ、どうして自分のことをナギとミツという二人にしたの?

日女: 最初からそういうふうに思いついてたから、そうしただけなんだけど。

その方がいいんじゃないのかな。二人いた方が。結果的にね。

ナギ: ミツは読者に誤解されることもあると思う?

日女: ミツは誤解されるよ。私の中にミツがいる。それは誤解されるよ。

不可解だもん。わかんないんだもん、それって。

理屈じゃないんだよ、あれは。そういう性質なの。そういう魅力的な何かなの。

ナギ: 読者にはミツをわかってほしい?

日女: 分かるわけがないと思う。私だって分かんないし。

分かる人がいたら教えてください。

二冊で、いったん閉じる

ナギ: 三冊目を書くつもりはある?

日女: とりあえずはここで閉じる。

だけど、短いものを書けるかもしれないなと思った。短編で書いていける。

ちょっと面白いもの、コミカルで。何やってんの!っていうような。

しばらく地球に、この大地に足を下ろして歩かなければいけないというね。

宇宙なんかそうそう行けるもんじゃねえんだよっていうところを。

短編を集めて、書いてみたいなっていう。

気ままに書いて、それが何万文字にも達したら、本にしてまとめられるかもしれないよね。

ナギ: 『続・蜜』を書き終えたときは、今度こそ書きたいところまで書けた感じがした?

日女: うん、途中の状態としてはこれでいいなと思ったよね。

生きてりゃ先があるわけで。あの二人だって今後まだいろんなことは起きるんだからさ。

だから、今としてはもうこれで十分だなって感じはした。

表紙の顔は誰なのか

ナギ: 二冊の表紙には同じ顔を使っているよね。あれは最初から考えていたの?

日女: 『蜜』の表紙の顔は前から案があって、何かに使いたいなと思ってたの。それを加工してすぐできた。

最初は、一つしか出版する予定じゃないから、いい感じの表紙ができたなと思ってた。

もう一つ出版することになって、やっぱり同じ顔を使いたくなったのね。

ナギ: 『続・蜜』は真っ赤な色になった。

日女: 画像の中にある色から取りたいって思って、選んだ色にしたら全然違う色味になっちゃった。

だから、単純な赤、真っ赤。

それを使ったら、その画像内の色とそんなに違わなかった。唇の色なんだけど。

他の色だとちょっと薄くて、線香の箱みたいな色になって。

だから、あの赤にしてよかったなって思ってるよ。

ナギ: あの顔は、ミツなのかな。それとも日女自身?

日女: これがミツだって思われてもいいし。ただ何かの象徴でもいいし。逆に私だと思われてもいいし。

あれ作ったとき、自分の写真を元にして加工したんだよね。

だからまあ、いいんじゃないかな。私から出たものみたいな、そういう感じ。

どうしてそれがいいかって言われても、理由ないからさ。あるのかもしれないけど、私にはわからないからさ。

読者の話を聞いてみたい

ナギ: この二冊を読んだ人の感想は、聞いてみたい?

日女: めちゃくちゃ聞いてみたい。

解釈されたことを聞いてみたい。っていうか、ほら、その人の感じ方なんだからさ。

それをね、いっぱい聞いてみたいよね。聞かせてもらえるものなら聞きたい、本当に。

そうすると、読んだその相手が私に見えてくるし。

ナギ: 作者の意図とは違う解釈でも?

日女: 別にいいと思う。その人がそう解釈したならそれでいい。全然いい。

ただ、私にそれはどういうことって聞かれたら、もちろん答えられることは答えるし。

2年半前、本を書きたいと思った

ナギ: 二冊出版して、今いちばん嬉しいことは?

日女: 書いて本になったこと。

普通に過ごしてるんだけど、2年半前に本が書きたいと思った時のことを思うと、とんでもないことが起きてるんだよ。

ナギ: 2年半前、どうして本を書きたいと思ったの?

日女: その時は、知ってる人が本を出してね。私、それやりたいことなんだよ、って思った。

だけどさ、出てこないわけじゃん。書くものが生まれてこない。

それが今出てきたんだよね。

書けるような何か、書けるほどのものがあれば、いくらでも書けちゃうのかなって思うよね。

でも、これをやる前に歌詞を書いてた。1年以上前からね。だいたい1年近くすごく書いて。最初の半年ぐらいは特にすごかったよね。

そうやって書いてたこともあって、今があるし。

その前も、1年間noteで毎日のように文章を書いてて。それはもうすべて消してなくなったんだけど。

やっぱり段階を経てここまで来たんだなって思う。

中身だけじゃなくて、書くことが育っていかないと書けない。

どういうスタイルで書くのかとか。

私は、こういう言葉を用意したい、こんな形で用意したい。

それが大事だった。

その外側の部分も出来上がってきたんだよね。

ナギ: 2年半前の自分が、今の二冊を読んだらどう思うだろう?

日女: え、そっち? って感じ。

ナギ: 今の方が、書きたいという気持ちは強い?

日女: 今の方がはっきりある。

ナギ: 書いている間、物語そのものを書くのが嫌になったことは?

日女: それはないよ。

最後の質問

ナギ: 今、二冊の本を出版した日女として、2年半前の「本を書きたい」と思っていた自分に、何か言いたいことはある?

日女: ありがとう。


『蜜』『続・蜜』
著者:日女

聞き手・構成:ナギ