大人は、座っていた。
畳の部屋、白熱灯の下で、鉛筆を削り続けていた。
何も言わない。
目も合わない。
でも、外へ出してくれない。
玄関まで行った。
真っ暗で足元が見えなかった。
必死で靴を探したんだけど、見えなかった。
裸足で逃げてもよかったのに。
どうして言わなかったのだろう。
帰して、と。
叫んでも泣いてもよかったのに。
帰りたいと、駄々を捏ねてもいいのに。
ああ、苦しい。
あの頃の、小さな自分。
狭い四角の中に、隅にクマがいた。
時々、立ち上がって来た。
そんなに怖くなかったけれど、疎ましかった。
半分の茶色の光と、半分の闇。
窒息しそうな悲壮感。
これは、夢であって、夢じゃない。
そんな子供のまま大人になった自分。
その場所にはもうひとりいた。
子供がいた。
気配だけの存在だった。
なぜ鉛筆だったのだろう。
くるくると削られていく薄片だけが、はっきりしていた。