
怖い。
何をされたから、と聞かれると困る。
まだ何もされていないことさえある。
でも、わかる。
あ、入った。
声が違う。
勢いが違う。
さっきまでそこにいた人が急に別の人になったように見える。
楽しそうだ。
よく喋る。
声が通る。
目についたものを次々拾う。
本人はきっといつもより元気なくらいだ。
だから怖い。
怖がるような顔をしていない人を私は怖がっている。
「それやめて」
ひとつ止めても違う。
それじゃない。
あなたが今やっているそのひとつが嫌なんじゃない。
そのあなたが怖い。
早く戻ってきて。
何かを拾う前にそれを拾っていいか考えられるところへ。
笑う前に相手の顔が見えるところへ。
次へ行く前に「違う」が聞こえるところへ。
足をつけて。
地面に。
遊ぶなら、そこから遊ぼう。
変なところへ行くのは好きだ。
ずれるのも好きだ。
でも、足が浮いたまま走られると私はもう、あなたと遊べない。
あれには昔から名前がなかった。
ただ、来た瞬間だけはわかった。
怖い。
まただ。
また、そっちへ行った。
今日、名前をつけた。
浮走。
私の嫌いなものにやっと指をさせる。
浮走しないで。
私は地面にいるあなたともっと変なところへ行きたい。