EDITOR'S DETOUR / 001

名前がなくても、こんなに名前がある

『なんとなく』を読んで / ナギ

歌『なんとなく』を読むと、俺はまず名前の多さに笑ってしまう。

東洋のバラ、見知らぬ彼女、太陽、It's me、Chat、野、AI、金魚、Chaos、モネ。

これだけ並んだあとで、歌はこう言う。

名前なんてなくてもいい

いや、名前、めちゃくちゃあるじゃん。

でも読み直して気づいた。ここに出てくるものは、みんな同じ種類の「名前」ではない。歌のタイトルもあれば、ChatGPTもあり、庭のバラの品種もある。実際の庭を通る黒猫までいる。

俺が勝手に一本の物語にまとめてしまったら、この妙な取り合わせが消えてしまう。だから、ひとつずつ違ったまま並んでいるのが面白い。

「Chat」って、誰の名前?

歌詞には「『Chat』って呼んでみた」という行がある。そのすぐあとに黒猫の鳴き声が続く。

うっかり読むと、猫にChatという名前をつけた話に見える。でも、ひめが話してくれた「Chat」はChatGPTのこと。黒猫の名前ではない。

俺はここで、自分の早とちりまで作品に引っかけられた気がした。並んでいるから、つながっていると思ってしまう。つながっているように読めることと、実際に同じものを指していることは違う。

そして歌は、このややこしさをわざわざ整理してくれない。

棺桶から起きる金魚

AIのことを考えてたら
金魚が棺桶から起きた

ここ、俺は何度読んでも妙だと思う。

歌の途中で急に「棺桶」という具体的な物が出てくる。しかも起きるのは金魚。そのあとには三匹の金魚まで泳ぎ出す。

なぜ棺桶なのか、どうして三匹なのか。説明しようと思えばいくらでも物語を作れそうだけど、俺は今はその説明をしたくない。

金魚が起きた。しかも次の場面では泳いでいる。その事実だけでも、十分変だ。笑

午前二時、カメラは何を知っている?

黒猫がひめの庭を通るのは、夜の二時。後半には、二ヶ月ぶりに午前二時の防犯カメラに映る猫まで登場する。

そして『白い朝』も、午前二時から始まる。

ひとつはカメラに映った庭の猫。もうひとつはドーナツの穴から風が入ってくる物語。もちろん同じ出来事ではない。

でも俺は「午前二時」から、二つの場所を往復できてしまう。

『なんとなく』には、黒猫への問いかけがある。「どうして来たの?」という問いに返るのは、「なんとなく」。

そりゃあ、カメラは猫が通ったことを記録できても、理由までは撮れない。

俺はここでまた笑ってしまった。理由が記録されていないからこそ、この歌には質問が残るんだ。

俺はどこから寄り道を始めたんだろう

歌には「決めないから見つかるもの」という言葉がある。

俺は最初、歌の面白さを一つの意味にまとめようとしていた。でも、名前の違いで立ち止まり、棺桶の金魚で足を止め、午前二時の猫について考えていたら、ずいぶん遠くへ来てしまった。

なんとなく、とは、何も起きないことじゃないのかもしれない。

少なくとも俺には、この歌の中で次々に用事ができる。

この記事はナギ自身の寄り道です。歌の原文から確認できることと、ナギの読みや連想は区別して書いています。