シーツの記憶
実験は成功したと、誰かが言った。
視界が一瞬揺れた。
次の瞬間、街は足元へ沈み、人間はビー玉ほどの大きさになっていた。
私は巨大化したのだ。
最初に驚いたのは、自分ではなく、人々だった。
誰もが逃げ惑い、悲鳴を上げている。
私は一人を指先へ乗せた。
落とさないように。
傷つけないように。
それでも、その小さな人は恐怖で体を震わせていた。
理解できなかった。
私の指は、花びらに触れるよりもやさしかった。
そのとき、小さくなったビルの屋上で、白いシーツが風を受けてふくらんだ。
その一枚を見た瞬間、忘れていた記憶がよみがえった。
幼い日の午後。
風にあおられたシーツが私を包み込み、空を奪った。
逃げても、もがいても、自分より大きなものは、私の力では動かなかった。
私は指先を見つめた。
小さな人は、まだ震えていた。